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にせもの

贋物

葛西 善蔵

「早稲田文学」1917(大正6)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,476 字 · 43 页

青空文庫

「まあまあ話は後にして、とにかく一風呂浴びてくるといいね。ばかに煤ぼけてるじゃないか」

潔癖な芳本は、久しく湯にもはいらず、むさ苦しく髯など延ばした耕吉の顔を気にして、自分から石鹸や手拭を出してはせきたてた。

芳本は平生から、「俺は潔癖から、いやむしろ高慢から、つねに損をしている。他人に迷惑をかけられている。俺はつねに美しいものを求めて、あべこべに泥を投げつけられているんだが、つまり高慢が俺の病いだ」こう言っていた。耕吉はふと汽車の中でそのことを想いだして、せいぜい四五日の同居ではあるが誰を訪ねたものかと迷ったあげく、つい芳本を選んだのである。嫌われ者の耕吉の依頼をも、芳本ならば彼のいわゆる美しい高慢から、卒気なく断るようなこともあるまいと、耕吉は考えたのであった。

「それだけのもので一本も鑑定がついてないという法はないと思うがねえ……」

ひととおり耕吉の話を聴いた後で芳本は言った。

「なあにね、俺の叔父さんが、貸金などの代りに取ったものばかしだから、鑑定などついてないさ」

耕吉は白々しく答えた。で芳本はさっそく友人のSという洋画家へしかるべき日本画家への紹介を頼む電話をかけてくれたが、