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あかいステッキ
赤いステッキ
壺井 栄
「中央公論」1940(昭和15)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,482 字 · 23 页
「こんどまたえいべべを黙って出して着て破ったりしたら、お母さんがどうするんじゃ?」
すると克子が首をふるわせて大きく泣きじゃくりをし、
「お母、さん、が、縫うて、くれ、る」
と答えた。納屋へしめこまれると思わせようとしたお母さんは、今までの腹立ちがきゅうに萎えてしまい、
「ああ、ああ、克にゃもう負けたあ」
笑いださずにはいられなかった。そんなふうに、少しのひがみなく母親を信じきっている克子のために、自分こそこれからさき何べんも破るであろう克子の洋服を縫ってやらねばと思った。そう考えるとともに、これから先々の克子の歩む道のけわしさを、どうでもこうでも切り開いてやらねばならないことのかずかずが、お父さんをも健をもふくめての親子暮しの将来に、雲のようにむらがってくる思いがした。
桜と梅のいさかいも、けっきょくはその雲の一つであろう。そうして、わあわあ泣きさわいだ健よりも歯をくいしばっている克子の方が、顔に爪あとの血をにじませている。お母さんはそれに薬をつけてやりながら、この争いは梅が散らなきゃおさまるまいとおかしくも思うのであった。
「なあ克、克は健ちゃんと喧嘩ごろするせに、高田いつれていけませんいうてお父さんに手紙出してもえいな」