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あかいらくだ

赤い駱駝

梅崎 春生

「世界」1948(昭和23)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,820 字 · 24 页

青空文庫

短剣が床におちていて、傷は咽喉のところだった。まだ呼吸がわずか残っているようにも思えたが、軍医長がきたときは、すっかりこときれていた。

その日の昼すぎ、二見の死体は埋められた。それを命ぜられた二、三のものをのぞいて、たれも二見の死には冷淡だった。船便がやってきたからだ。埋め終ったころ、最初の大発が海岸から出発した。おれたちは二見を埋めた丘の上から、それを眺めていた。大発のなかの兵たちは、こちらに向ってもしきりに手を振った。

二見の話はこれでおしまいよ。

二見の遺品も全部処分したが、手帳だけはおれがあずかった。この手帳には、住所書きとかいろいろ文字が書いてあって、後になるほど乱れて判読できなくなっている。錯乱して後の手蹟だろう。まだ正気のときらしい文字のなかに、「赤い駱駝」という四字が一頁に書かれてある。今思うんだが、ひょっとするとあいつは、そんな童話を書こうと思いついて、心覚えに書きとめておいたのかも知れない。それも敗戦前のことか、敗戦後のことかは判らない。しかしこの言葉はいずれにしても、奇妙にあの夕焼をあざやかにおれの胸に再現される。そしてそこに立っていた黒い二見の姿を。