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あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
山本 周五郎
08 氷の下の芽
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,146 字 · 40 页
まさをは微笑しながら、感謝のおもいをこめたまなざしで彼をみつめた。
――ありがとうございました。
まさをの眼はそう云っていた。こまかな感情をよくあらわす、賢そうな眼だな、と登は思った、おれは幸運だった、まさをは決して眼に立つ美貌ではない、だが時の経つにしたがって、しだいにその美しさがあらわれるようだ。ちぐさの美貌は咲き誇る花の美しさであり、幹や枝は花を咲かせる役でしかなく、花が盛りを過ぎ、散ってしまうと、幹や枝のなりはひと際すがれてみえる。まさをは花こそつつましいが、幹も枝もすくすくと伸び、成長するにしたがって本当の美しさが磨きだされる。片方を花の木とすれば、片方は松柏の色を変えぬ姿に比べられるだろう。これこそ一生の妻にふさわしい女だ、と登は思った。
保本、天野の両夫妻に盃がまわり、それが終ると、源伯が坐り直って登を見た。
「さて、登どの」と源伯は云った、「こなたの養生所勤めも一年になるが、新出先生と話しあった結果、来年三月の期変りから、こなたは目見医にあがることになった」
登は訝しげな眼をした。
「長崎遊学から帰ったとき、すぐその手配をする約束であったが」