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あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
山本 周五郎
08 氷の下の芽
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,146 字 · 40 页
子守とか走り使いに出されるのだが、父と母が代る代るいって、僅かな駄賃の前借りをするのである。おりつは十一の年、深川の芸妓屋へ奉公に出され、給銀の借りが溜ったので、十二の春に、その代償として客を取らされた。おりつは恐ろしさのあまり逃げ帰ったが、すると佐太郎が掛合にいき、どう話をつけたものか、こんどは本所安宅の、岡場所の一軒へ奉公にやられた。
――こんどは堅い女中奉公だ。
佐太郎はそう云ったし、初めは勝手仕事や使い走りをするだけだったが、五十日ばかりすると客を取らされ、逃げようとしたら捉まって、殺されると思うほど折檻された。五十日ほどのあいだに、父と母とで十両ちかい前借をしていたのだという。
「そのときあたしは八つで、深川の八幡前にある煎餅屋へ子守りにいってました」とおえいは云った、「そして或るとき子守りをしながら、姉さんの奉公先へ訪ねていって、その話を聞いたんです」
兄の次郎は九つで、馬喰町の旅籠屋に奉公していた。彼も前借が嵩むため、そこが三度めの奉公であったが、自分では一文の小遣も自由にならない、と不平を云っていた。姉の話を聞いて帰る途中、おえいは自分もまた姉や兄と同様であること、弟の兼次は四歳、生れてまのない妹のはなも、やがてはみんな親のくいものになるだろう、などということを思って、幼ないながらも胸が凍る