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あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
山本 周五郎
08 氷の下の芽
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,146 字 · 40 页
と半太夫は訊き返した、「それは、保本だけがきめていることだろう」
登は黙って頭を垂れた。こうなんだ、と彼は云いたかった。おえいは十歳という年で、身を護る決心をした。そうしてやがて子を産むだろうが、このきびしい世間の風雪の中で、子供をりっぱに育ててみせると云っている。去定の生きかたも同様だ、見た眼に効果のあらわれることより、徒労とみられることを重ねてゆくところに、人間の希望が実るのではないか。おれは徒労とみえることに自分を賭ける、と去定は云った。
――温床でならどんな芽も育つ、氷の中ででも、芽を育てる情熱があってこそ、しんじつ生きがいがあるのではないか。
だが登はそうは云わなかった。
「おれはここに残るよ」と登は答えた、「おれをここへ入れたのは赤髯先生だからな、その責任は先生にとってもらうよ」
そして彼は食堂を出た。
自分の部屋へいってみると、津川玄三がおかねと話していた。話すというよりもからかっていたらしい。おかねが躯をぐらぐらさせながら、大きな声でみだらな話をしてい、津川が露骨な口ぶりで相槌を打っていた。
「ああ、おまえさんだ」とおかねは登を見て云った、「あたしゃその顔を覚えてるよ、なんだいいけ好かない、こっちの先生のほうがよっぽどましじゃないか、澄ますんじゃないよ」