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かるいざわ

軽井沢

寺田 寅彦

「経済往来」1933年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,190 字 · 13 页

青空文庫

同じ汽車でおりた西洋人夫婦が、純粋な昔のシナの服装をしたシナ婦人に赤ん坊を抱かせて、しずしずと改札口を出た。子供のかかえ方が日本人とはよほどちがっている。それが実にさもさもだいじなものを捧持しているようなかかえ方である。よそ目にもはらはらするようなそこらの日本の子守りと比べて、このシナ婦人のほうに信用のあるのはもっともである。

軽井沢から沓掛へ乗った一人の労働者が、ひどく泥酔して足元があぶないのに、客車の入り口の所に立ってわめいている。満州国がどうして日本帝国がどうかしたといったような事を言って相手を捜している。客車の中から一人洋服を着た若い学校の先生らしいのが出て来て、手を握ったり肩をたたいたりしてなだめている。労働者は喜んで何か口の中でもぐもぐ言いながらその若者を拝むようなまねをした。ちょっとした芝居であった。その車の入り口のいちばん端にいた浴衣がけの若者が、知らん顔をしてはいたが、片腕でしっかり壁板を突っぱって酔漢がころげ落ちないように垣を作っていた。新青年と旧青年との対照を意外なところで見せられる気がした。

雨気を帯びた南風が吹いて、浅間の斜面を白雲が幾条ものひもになってはい上がる。