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のうそん
農村
宮本 百合子
「多喜二と百合子 七号~十三号」多喜二・百合子研究会、1954(昭和29)年12月~1955(昭和30)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,223 字 · 97 页
けれ共、その中央の深さは、その土地のものでさえ、馬鹿にはされないほどで、長い年月の間に茂り合った水草は小舟の櫂にすがりついて、行こうとする船足を引き止める。
粘土の浅黒い泥の上に水色の襞が静かにひたひたと打ちかかる。葦に混じって咲く月見草の、淡い黄の色はほのかにかすんで行く夕暮の中に、類もない美くしさを持って輝くのである。
堤に植えられた桜の枝々は濃く重なりあって深い影をつくり、夏、村から村へと旅をする商人はこの木影の道を喜ぶのである。
二番池の堤は即ち三番池の堤である。二番池の崩れた堤は、はるか遠く水田の中にかくれて完全に道のついて居る一方はいつとはなしに三番池の堤の一方を補って気のつかない間に、彼方に離れて仕舞う。
三番池は美くしい水草の白く咲く、青草の濃いのどやかな池であった。
この池に落ち込む、小川のせせらぎが絶えずその入口の浅瀬めいた処に小魚を呼び集めて、銀色の背の、素ばしこい魚等は、自由に楽しく藻の間を泳いで居た。この池は、この村唯一の慰場となって居た。
池の囲りを競馬場に仕たてて春と秋とは馬ばかりではなく、町々の、自転車乗が此処で勝負を決するのが常である。