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うんめいのままに

運命のままに

豊島 与志雄

「黒潮 第壹卷第貳号」太陽通信社、1916(大正5)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,406 字 · 57 页

青空文庫

石田周吉というのは痩せた背の高い男である。彼の身体は一寸薄弱そうに見えるけれど、何処か丈夫なものを身内に包んでいるような観がある。始終健全ではないが、またそのままにじりじりと如何な無理をも通してゆけそうに見える。実際彼のうちには不思議な大きいものが在る。注意の対照となるものを凡て自分のうちに引きずり込んで、それで彼はじっと落ち付いている。誰も彼が激しい言葉を発するのを見た者はない。どうかすると頬の筋肉がびくびく震えることもあるが、それも一瞬間のうちに表皮の下に隠されてしまって見えなくなる。凡てのものが心の奥へ潜入してゆくのだ。然しそうして彼の心の奥には何が蓄積されたか? 誰も、恐らくは彼自身と雖も、それを云い得ないであろう。恐ろしい深いそして暗い穴だ。其処をふと覗く時、人は皆ある重苦しい圧迫をさえ感ずる。彼のうちには恐ろしく力強い彼一人の把持する世界が、そして恐らくは空虚な世界が、あるらしい。

最近彼のうちには何か変化、というより寧ろ推移があったらしい。一人で散歩している時など、よく彼は急に足を早めることがある。何かに追われるといった風だ。それからまた彼の眼の光りも濁ってきた。