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うんめいのままに
運命のままに
豊島 与志雄
「黒潮 第壹卷第貳号」太陽通信社、1916(大正5)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,406 字 · 57 页
暫くまた叔母の家に帰ろうと思っているというようなことを彼女は云っていた。
其処に間もなく友達がやって来た。お島は黙ってもじもじしていたが、何か御馳走しようというのもきかないで帰って行った。
「さっぱり要領を得ない女だね。」と友は云った。
「ああ。」
「それに君の態度もおかしいね。丸で妹でも扱ってるような風に見えるよ。」
「そうかなあ。然し僕はあの女には妙に生地のままの安らかな心地で対せられる、どんな女に対しても多少の武装をするのが普通だがね……彼女の方に個性の影が薄くってさっぱり要領を得ないせいかも知れない。」
実際私は彼女に対してだけは、生地のままの安らかな心地で接することが出来た。随って私の心に何等深い印象も残されなかった。その上私の心は英子に対する愛で一杯になっていたのである。自分の心のうちを覗く時、私は其処に殆んどお島の影を認めなかった。然し彼女の柔らかな雰囲気がいつしか私の心に染み込んでいたかも知れないことを、私は告白しなければならない。
然し私がある晩お島の手紙を見た時、私の心に映った者は、それはお島ではなかった。それは一個の淋しい人間の姿であった。