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うんめいのままに
運命のままに
豊島 与志雄
「黒潮 第壹卷第貳号」太陽通信社、1916(大正5)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,406 字 · 57 页
私はその重苦しい気分に浸りながら、殆んど時の過ぎるのをうち忘れた。英子からも、またお島からも、何の便りもなかった。私はその日朝から一歩も外に出ないで、空虚な自分の心を懐いて空な一日を過した。敗残者の疲労がしみじみと身に感ぜられた。然し私の心は重苦しく落ち付いていたのである。
夜の八時頃、私は俥屋が持って来たお島からの手紙に飛び起きた。私はすぐに外に出た。然し何処にお島が居るか、さっぱり見当がつかなかった。仄暗い通りをすかし見ながら、横町を曲ると、電柱の影にお島がぼんやり佇んでいた。
「どうしたんだい。」と私は思わず叫んだ。
「あなたを待ってたの。」とお島は落ち付いた調子で答えた。
「なぜあんなことをするんだい。下宿に来ればいいじゃないか。」
「でも嫌だから。」
何が嫌だか私には分らなかった。
私達はただ無意味に歩き出した。叔母さんが居ないから一寸出てきた、心配していたがお目にかかれて嬉しかった、とそんなことをお島は云った。然し私達の間には別にこれといって話の種もなかった。私は彼女を自分の懐のうちに感ずるような気がして、何にも聞かないでもよく分るような安らかな気持ちを覚えた。