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ちがうへいはちろう
違う平八郎
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,142 字 · 27 页
「そなた達は何事です、まだ前髪の分際で世間の噂を聞噛り、相手の温和しいのを好い事に嘲弄するとは見下げ果てた仕方、――さ、お詫びを申して此処をお下りなさい」
「――は」
如何に荒小姓でもお寧々様には手も足も出なかった。年嵩のがぺこりと低頭するのにつれて、みんな一つ宛お辞儀をしながら逃げるように去って行った。
お寧々はそれを見送ってから、
「本多さまと、仰有いますのね」
と静かに振返った。
――平八郎は相手が何者であるかを知らない。けれど言葉の調子から考えて凡その身分の見当はついた。
「は、本多平八郎、あの豪傑ではなく違う方の本多……」
「お待ち遊ばせ」
お寧々は屹と遮った。
「なぜそんな断りを仰有いますの?」
「はあ、それは、あれなのです」
「元旦の祝賀の折にも、わたくし上段に侍っていて伺いました。どうしてそのように一々お断りなさいますの、他に何千何百人の本多平八郎がいようと、貴方のお名が本多平八郎ならそんな断りを云う必要は些しもないではございませぬか」
「――仰せの、通りです」
平八郎は耳まで赤くしながら云った。
「それは仰せの通りなのです。けれど……徳川家の豪傑、天下の鬼平八郎と間違えられはせぬかと思うと、つい断らずには」