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じゃしゅうもん

邪宗門

芥川 竜之介

「東京日日新聞」1918(大正7)年10~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,184 字 · 79 页

青空文庫

すると甥は早くも身仕度を整えたものと見えて、太刀の目釘を叮嚀に潤しますと、まるで私には目もくれず、そっと河原を踏み分けながら、餌食を覗う蜘蛛のように、音もなく小屋の外へ忍びよりました。いや全く芥火の朧げな光のさした、蓆壁にぴったり体をよせて、内のけはいを窺っている私の甥の後姿は、何となく大きな蜘蛛のような気味の悪いものに見えたのでございます。

二十六

が、こう云う場合に立ち至ったからは、元よりこちらも手を束ねて、見て居る訳には参りません。そこで水干の袖を後で結ぶと、甥の後から私も、小屋の外へ窺いよって、蓆の隙から中の容子を、じっと覗きこみました。

するとまず、眼に映ったのは、あの旗竿に掲げて歩く女菩薩の画像でございます。それが今は、向うの蓆壁にかけられて、形ははっきりと見えませんが、入口の菰を洩れる芥火の光をうけて、美しい金の光輪ばかりが、まるで月蝕か何かのように、ほんのり燦めいて居りました。またその前に横になって居りますのは、昼の疲れに前後を忘れた摩利信乃法師でございましょう。それからその寝姿を半蔽っている、着物らしいものが見えましたが、これは芥火に反いているので、噂に聞く天狗の翼だか、それとも天竺にあると云う火鼠の裘だかわかりません。