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のざらし
野ざらし
豊島 与志雄
「中央公論」1923(大正12)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,100 字 · 39 页
その彼の顔に、達子はじっと眼を据えながら云った。
「どうしたの、ぼんやりして? そして変な顔をして?」
「片山さんは私に怒ってらっしゃるんじゃないでしょうか?」
「なぜ?」
達子は眼を丸くした。
「何だかいつもと様子が違ってるようじゃありませんか。」
「どうして?」
達子の丸い眼には率直な澄んだ輝きがあった。
「そうでなけりゃ……、」と昌作は漸く落着いて云った、「……喧嘩でもなすったんですか。」
「まあ!」達子はもう我慢出来ないという風に早口で云い進んだ。「あなたの方が今日はどうかしてるのよ。いやにひねくれて、夫婦喧嘩をしたかなんて、そんなことを聞く人があるものですか。そりゃあ片山だって、あなたが余りあやふやだから、少しは厭気がさすでしょうよ。けれど怒ってなんかいませんわ。また喧嘩なんかもしやしませんわ。」
「いえ私はそんな……。云い方が悪かったら御免下さい。ただ何だか片山さんの様子がいつもと違ってるようだったものですから……。」
「誰にだって心配ごとがある時もあるものよ。」と達子は心を和らげて云った。「会社の方に何かごたごたがあって、それに頭を使いすぎなすってるらしいのよ。