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きんば
金歯
小川 未明
「文芸」1935(昭和10)年3月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 7,108 字 · 14 页
みんなが、びっくりして声を上げているうちに、すずめは、どこかへいってしまって、令ちゃんの思うとおりになったというのよ。こんな話をきくと、ただばからしいとだけは思えないわ。」
母親は、火鉢によりかかるようにして、娘の顔を見ました。
「そういうふうに、おまえがあの子を半分疑ってみるのも道理だけれど、ばかというものじゃない、ただ異っているだけだ。あの子には、学問、学問といわぬほうがいいよ。どちらかといえば、私は、学問より人情のあるほうを取りますからね。先だってであったか、令二が、お母さんには、空へ突き出ている木の枝が、金色には見えませんか。僕は、このごろの風景が、みんな光って見えますがねというから、それは、おまえが、お母さんの金歯を売ったお金で、絵の具を買ったからでしょうというと、お母さんは、さすがに偉いな、よく僕の心の底の見えないところまでわかっている。こんど描いている絵は、傑作と思いますから、もし評判にでもなって、いい値で売れたときには、なんでもお母さんのお好きなものを買ってあげますよというのです。私はなにもほしいとは思わないが、ただおまえの絵が、世の中に認められれば、それで満足です、なによりもそれがうれしいといったのですよ。