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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
07 怪談抜地獄
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,998 字 · 32 页
「へっ、まことにどうも――なんともはや、お礼の言葉もございません。あなた様がお通り縋りにならなければ、手前は災難の泣き寝入りで――この財布には、旦那さま、連中の手前、暖簾に恥を掻かせまいと言うんで大枚の――。」
言いかけて伝二郎は後を呑んだ。侍の眼が怪しく光ったように思ったからである。手早く紙入れを胴巻の底へ押し込んでから、伝二郎はながながと事件の顛末を話し出した。
「此町まで参りますと、あの女が背後からやにわに組みついて来ましたんで。素町人ではございまするが、気が勝っておりましたんで、なにをっとばかり私も、あの女を眼よりも高く差し上げて――。」
「まだ酔いが醒めんと見えるのう。」
侍は苦笑しながら、
「いいわ、近けりゃあそこまで身共が送ってつかわす。宅はどこじゃ?」
伝二郎は慌てた。
「なに、その、もう大丈夫なんで。お志だけで、まことにありがたい仕合せでござります。」
自家まで尾いて来られては、父母や女房の手前もある。ましてこの為体のしれない物騒な面魂、伝二郎は怖気を振ったのだった。
「袖摺り合うも何とやら申す。見受けたところ大店の者らしい。夜路の一人歩きに大金は禁物じゃ。