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やすりくず

鑢屑

寺田 寅彦

「週刊朝日」1924(大正13)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,364 字 · 13 页

青空文庫

中央に何かしら盾のようなものがあってその両脇に男と女の立像がある。

これはたぶん商工業の繁昌を象徴する、例えば西洋の恵比須大黒とでも云ったような神様の像だろうと想像していたが、近頃ある人から聞くと、あれは男女の労働者を象ったものだそうである。これを聞いた時に私は微笑を禁ずる事が出来なかった。

六

田舎道の道端に、牛が一匹つながれていた。そこへ十歳前後くらいの女の児が二、三人つれだって通りかかった。都会の小学校へ通っての帰途らしい。突然女の児の一人が「牛は、わりに横眼がうまいわねえ」と云った。

近頃次第に露骨になりつつある都会のある階級の女のコケトリーについて、人から色々の話を聞かされていた私は、この無心の子供のこの非凡な註説を無意味には聞き逃す事が出来なかった。

七

知名の人の葬式に出た。

荘厳な祭式の後に、色々な弔詞が読み上げられた。ある人は朗々と大きな声で面白いような抑揚をつけて読んだが、六かしい漢文だから意味はよく分らなかった。またある人は口の中でぼしゃぼしゃと、誰にも聞こえないように読んでしまった。後にはただ弔詞を包紙に包んだままで柩の前に差し出すのも沢山にあった。