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やすりくず
鑢屑
寺田 寅彦
「週刊朝日」1924(大正13)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,364 字 · 13 页
いったい弔詞というものは、あれは誰にアドレッスされたものだろう。死んだ人を目当てにしたものか、遺族ないしは会葬者に対して読まれるものだろうか、それとも死者に呼びかける形式で会葬者に話しかけるものだろうか。あるいは読む人の心持だけのものであるか。
いずれにしてもあれはもう少し何とかならないものだろうか。
むしろ故人と親しかった二、三の人が、故人の色々な方面に関する略歴や逸事のようなものを、誰にも分る普通の言葉で話して、そうして故人の追憶を新たに喚び起すようにした方がもう少し意味がありはしないか。
八
道路の真中に煉瓦の欠けらが転がっていた。そこへ重い荷物を積んだ自動荷車が来かかって、その一つの車輪をこの煉瓦に乗り上げた。煉瓦はちょうど落雁か何かで出来てでもいるようにぼろぼろに砕けてしまった。
この瞬間に、私の頭の中には「煉瓦が砕けるだろうか、砕けないだろうか」という疑問と「砕けるだろう」という答とが、ほとんど同時に電光のように閃いた。しかしその声が煉瓦のまだ砕けない前に完了したのであったか、それとも砕けるのを見てから後であったのか、事柄の経過したすぐ後で考えてみても、どうしてもよくわからない。