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ながさきのかね
長崎の鐘
永井 隆
「長崎の鐘」日比谷出版、1949(昭和24)年1月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,109 字 · 131 页
お布団の中で寝たよ。電燈もついてたねえ」
私はじっと立っている。茅乃は次から次へ思い出をしゃべる。眼をつむれば、わが家庭生活が竜宮のように鮮やかである。眼を開くは玉手箱を開けるに等しく、浦島ならねども、一瞬荒涼となり、原子野が一切の夢を打ち壊して眼に飛び込む。野分が吹いて瓦が泣く。
悄然として市太郎さんがあらわれる。足首を結んだ復員服の一張羅。復員して来てみたら故郷は廃墟、わが家に駆けつけてみればただ灰ばかり、最愛の妻と五人の子供の黒い骨が散らばっていた。
「わしゃ、もう生きる楽しみはなか」
「戦争に負けて誰が楽しみをもっとりましょう」
「そりゃそうばってん。誰に会うてもこういうですたい。原子爆弾は天罰。殺された者は悪者だった。生き残った者は神様からの特別のお恵みをいただいたんだと。それじゃ私の家内と子供は悪者でしたか!」
「さあね、私はまるで反対の思想をもっています。原子爆弾が浦上に落ちたのは大きなみ摂理である。神の恵みである。浦上は神に感謝をささげねばならぬ」
「感謝をですか?」
「これは明後日の浦上天主堂の合同葬に信者代表として読みたいと思って書いたのですが、ひとつ読んでみてくださいませんか」