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ながさきのかね

長崎の鐘

永井 隆

「長崎の鐘」日比谷出版、1949(昭和24)年1月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,109 字 · 131 页

青空文庫

誠一も茅乃も原子時代の人間だ」

原子時代、原子時代と呟いていた子供も眠る。ちろちろ虫が頭の下で鳴いている。人類は原子時代に入って幸福になるであろうか? それとも悲惨になるであろうか? 神が宇宙に隠しておいた原子力という宝剣を嗅ぎつけ、捜し出し、ついに手に入れた人類が、この両刃の剣を振っていかなる舞を舞わんとするか? 善用すれば人類文明の飛躍的進歩となり、悪用すれば地球を破滅せしめる。いずれも極めて容易簡単な仕事である。そして右にするか左をとるか、これまた簡単に人類の自由意志にまかせられてある。人類は今や自ら獲得した原子力を所有することによって、自らの運命の存滅の鍵を所持することになったのだ。思いをここに致せば、まことに慄然たるものがあり、正しき宗教以外にはこの鍵をよく保管し得るものはないという気がする。

ちちろ、ちちろ、と虫が鳴く。抱き寝の茅乃がしきりに乳をさぐる。さぐりさぐって父だと気づいたか、声をころして忍び泣きを始めた。泣きながらやがてまた寝息にかわる。私だけじゃない。この原子野に今宵いま幾人の孤児が泣き、やもめが泣いていることであろう。

夜は長く眠りは短い。