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ながさきのかね
長崎の鐘
永井 隆
「長崎の鐘」日比谷出版、1949(昭和24)年1月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,109 字 · 131 页
テニスコートをよこぎりながら、こちらへ手をふる二人のもんぺ姿がある。レントゲン科の看護婦の浜さんと大柳さんらしかった。以前にレントゲン科で技手をしていた辻田君の顔を窓に見いだして合図したものだった。辻田君はつと立ってハンカチを振った。運動場の芋畑にはレントゲン科の山下さんや吉田さんや井上さんがしゃがんで草をとっている。浦上の丘の段々畑には、空襲の切れ間のしばしを利用して草とりをしている農民の姿が、あちこちに点々と見える。天主堂へは信者が引き続き参詣している。路にもちらちら日傘が光る。
「長崎はいつ見てもきれいですねえ」
「二か月あとで私たちが東京から帰ってきた時、やっぱりこのままでしょうか」
「私はなんだか長崎がなくなりそうな気がする」
「私はなんだか長崎だけは残りそうな気がする」
そこへ「ピカドン」が来た。
山田先生はやっとのことで床下へ出て助かった。隣に埋まった辻田君の「苦しい、苦しい」とただ二言いったきりで息絶えたのが夢のようである。細菌教室はたちまち一塊の火となった。脱出したのは山田先生独りだった。内藤教授以下全員即死したものと思われる。
外にはい出してみるとうす暗く、風がそうそうと空に鳴っていた。