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ながさきのかね

長崎の鐘

永井 隆

「長崎の鐘」日比谷出版、1949(昭和24)年1月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,109 字 · 131 页

青空文庫

「がんばれよ」と、私は礼を返しながらいった。上野は、はにかんで頭をかいた。

「このあいだは、お袋から叱られましたたい。人様の目につくことをしてよか気になるもんじゃなか。もう子供じゃなかけん……、と」

裏門には手押しポンプ隊がたむろしていた。すべては、焼夷弾と爆弾とに対してはまずまず大丈夫であった。私は満足して、こんどは病棟の東側を通ってみた。このあいだの爆弾にやられた外科、婦人科、耳鼻科のあとは、人の体の怪我よりもむごたらしかった。その傍らには、ここにもまた夾竹桃が血の色に咲いていて、ひっそりと石炭酸が匂っている。私はふっと不吉な予感を覚えた。

警報解除のサイレンが、身体じゅうの疑いを解いてくれるためのように鳴りわたった。教室へ帰ってくると、皆ががやがやいいながら鉄兜の紐をほどくところであった。情報係の井上看護婦が、くりっとした眼をなおさらくるくるさせて、ちょっと小首を傾けながら「九州管内敵機なし」とラジオのいったとおりを報告した。赤らんだ頬に軽く汗が浮いて、髪の毛が三すじくっついている。

「ただちに授業始め!」本部伝令が、また叫んで通った。学生はそれぞれ教室に入り、大学は再びひっそりした真理探究の象牙の塔となった。