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ながさきのかね

長崎の鐘

永井 隆

「長崎の鐘」日比谷出版、1949(昭和24)年1月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,109 字 · 131 页

青空文庫

木場六枚板の湯と称せられ、大正のころには小さい湯宿もあった。私たちは、このおびただしい熱傷患者の収容処置は鉱泉療法にしくものはないと考えた結果、この木場に救護班を開設することになった。

遺骨を胸に、十二日浦上を出て三ツ山の渓に入ってゆく。灰の視界はたちまち一転、満目碧玉のごとく青嵐颯々として生気躍動するを見る。皆は幾度か立ち止まっては深呼吸をして戦塵を吐き出した。五体一呼吸ごとに清浄となりゆくを覚える。木場郷藤ノ尾の一軒家を救護班本部に借りる。まず一同は屋前の林をくぐり、渓流に下り立ち、岩に衣をかけて、激しく流れる清冽の水に身体を沈める。岩を枕に水布団、そのまま空を仰げば両岸高くせまり、緑樹互いに交叉して蝉の声雨のごとく、わずかな青空を白雲が悠々と去来する。嗚呼われ生きてあり、われ生きてあり。私は戦地で詠んだ、

今日もまた生き残りたる玉の緒の生命尊く思ほゆるかも

を思い出し幾度も詠んだ。水から上がって拭きながら見て驚いた。右半身は小さなガラス傷が数えたくもないほどである。気がついてみると、どれも痛い。血まみれの衣を洗い、それを岩の上にひろげて、乾くまで緑陰に眠る。