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ながさきのかね
長崎の鐘
永井 隆
「長崎の鐘」日比谷出版、1949(昭和24)年1月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,109 字 · 131 页
私たちはそれからすぐに犬継地区の治療にとりかかった。今日はいよいよ体力の尽き果てた感じで、どうかすると、私たちがいちばん重症者じゃないかしら、患者はこんなにしゃべるのに、私たちは返事ひとつするのさえ考えるほどだ。死にゆく人は相つづく。今日あたりが怪我人の峠のようだ。戦争だ、頑張れ、と互いに励まし合って働く。
朝早く大学本部へ食糧補給に出かけていった長老が、まだ夕方早くあたふたと帰ってきた。米の袋と味噌の包みと罐詰とは大いに歓迎するところであったが、その後で口から出した情報こそは!
「戦争はすんだらしい!」
「……それで、条件は?」
「無条件降伏、ポツダム宣言全面受諾」
一同黙然。
「うそだろう」私がいった。
「市内は大混乱です。うそだといい張る者とほんとうだという者と。正午に重大放送がありました。ガーガー鳴ってよく聞き取れなかったけれど、『朕は…』とか『朕が』というみ言葉がちょいちょい混じっていたので、あれは陛下ご自身のお声だという人もあり、そうかと思うと憲兵隊がトラックで市中を乗り回して、正午のは敵側のデマ放送だから信ずるな、あくまで本土決戦だ、と怒鳴ったり、わけがわからぬのです。