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ながさきのかね

長崎の鐘

永井 隆

「長崎の鐘」日比谷出版、1949(昭和24)年1月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,109 字 · 131 页

青空文庫

涙はあふれて耳を塞いだ。二十分、三十分、私はまるで子供のように泣きつづける。涙は涸れたが、やっぱりむせび泣きをしていた。椿山君も畳に突っ伏したまま肩を震わして泣いている。夕方早く、救護に出た仲間が帰ってきた。その顔を見たら、また、わっと私は泣きだしてしまった。皆、手と手を取り合って泣く。いつまでもいつまでも、陽が落ち、月が差しても泣きやまない。そのまま飯も炊かず、茶も飲まず、何も考えず、何もいわず、牛乳のように白く濁った頭を涙の海に沈めて、泣きつづけた果てに、昼の疲れがどっと出て、眠りに落ちてしまっていた。

十七日。〈国破れて山河在り〉障子を開けて山に向かう。三ツ山は泰然としてもとのごとく、白雲去来するをさえ気にせぬ。栄枯盛衰また一片の雲か、神国不滅の不動の信念は一瞬に崩れ去って、夏晴れの朝空ほしいままに米国機の跳梁に委ねるのみ。グラマンが来る、ロッキードが来る。みんな低空低速、悠々と見物してまわっている。B29のあっとたまげるほどの図体が三ツ山すれすれに飛び去った。

もう戦争はすんだのだ。私たちは負けたのだ。今日は何もせずに寝て暮らそうやと、朝飯を終わると皆はごろごろ転がって、雲を見、森を見、飛行機を見ていた。