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いんじゅう

陰獣

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页

青空文庫

十二

僕は道徳的に人一倍敏感な男なのです。……では左様なら」

私は静子の背中の蚯蚓脹れの上に、心をこめた接吻を残して、暫くの間彼女との情痴の舞台であった、私達の化物屋敷をあとにした。空は愈々低く、気温は一層高まって来た様に思われた。私は身体中無気味な汗にしたりながら、その癖歯と歯をカチカチ云わせて、気違いの様にフラフラと歩いて行った。

十二

そして、その翌日の夕刊で、私は静子の自殺を知ったのだった。彼女は恐らくは、あの洋館の二階から、小山田六郎氏と同じ隅田川に身を投じて、覚悟の水死をとげたのである。運命の恐ろしさは、隅田川の流れ方が一定している為に起ったことではあろうけれど、彼女の死体は、やっぱり、あの吾妻橋下の汽船発着所のそばに漂っていて、朝通行人に発見されたのであった。何も知らぬ新聞記者は、彼の記事のあとへ、「小山田夫人は恐らく、夫六郎氏と同じ犯人の手にかかって、あえない最期をとげたものであろう」と附加えた。

私はこの記事を読んで、私の嘗つての恋人の可哀相な死に方を憐れみ、深い哀愁を覚えたが、それはそれとして、静子の死は、彼女が彼女の恐ろしい罪を自白したも同然で、まことに当然の成行きであると思っていた。