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いんじゅう

陰獣

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页

青空文庫

九

死体は流れて来た。では、どこから流れて来たか。兇行はどこで演ぜられたのか。……そうして、私は深く深く、妄想の泥沼へと沈み込んで行くのであった。

九

私は幾晩も幾晩もそのことばかり考え続けた。静子の魅力もこの奇怪なる疑いには及ばなかったのか、私は不思議にも静子のことを忘れてしまったかの如く、ひたすら奇妙な妄想の深味へ陥って行った。私はその間にも、あることを確める為に二度ばかり静子を訪ねは訪ねたのだけれど、用事をすませると、至極あっさりと別れをつげて、大急ぎで帰ってしまうので、彼女はきっと妙に思っていたに相違ない。私を玄関に見送る彼女の顔が、淋しく悲しげにさえ見えた程だ。

そして、五日ばかりの間に、私は実に途方もない妄想を組立ててしまったのである。私はそれをここに叙述する煩を避けて、その時糸崎検事に送る為に書いた私の意見書が残っているから、それにいくらか書入れをして、左に写して置くことにするが、この推理は、私達探偵小説家の空想力を以てでなければ、恐らく組立て得ない体のものであった。そして、そこに一つの深い意味が存在していたことが、のちになって分って来たのだが。