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いんじゅう
陰獣
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页
十一
「いいや、桜木町の近所の人に聞いたのだよ。だが、君の逢った時も、やっぱり歯痛をやっていたのかね」
「エエ、いつもですよ。よっぽど歯の性が悪いのでしょう」
「それは右の頬だったかね」
「よく覚えないけれど、右の様でしたね」
「併し、洋髪の若い女が、古風な歯痛止めの貼り薬は少しおかしいね。今時そんなもの貼る人はないからね」
「そうですね。だが、一体どうしたんです。例の事件、何か手掛りが見つかったのですか」
「まあ、そうだよ。詳しいことはその内話そうよ」
と云った訳で、私は前に聞いて知っていたことを、もう一度念の為に本田にただして見たのだった。
それから、私は机の上の原稿紙に、まるで幾何の問題でも解く様に、様々の形や文字や公式の様なものを、殆ど朝までも書いては消し書いては消ししていたのである。
十一
そんなことで、いつも私の方から出す媾曳の打合せの手紙が、三日ばかり途切れたものだから、待切れなくなったものか、静子から明日の午後三時頃、きっと例の隠れがへ来てくれる様にとの速達が来た。それには「私という女の、余りにもみだらな正体を知って、あなたはもう私がいやになったのではありませんか、私が怖くなったのではありませんか」