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いんじゅう

陰獣

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页

青空文庫

これは何も君への復讐の為にしたことではなく、私の厭人癖と秘密好みから出た韜晦なのだが、それが計らずも役に立った。私は一層の綿密さを以て世間から私の姿をくらますであろう。そして、着々君への復讐計画を進めて行くであろう。

君は私の計画を知りたがっているに相違ない。だが、私は今その全体を洩らすことは出来ぬ。恐怖は徐々に迫って行く程効果があるからだ。併し、君がたって聞きたいと云うならば、私は私の復讐事業の一端を洩らすことを惜しむものではない。例えば、私は今から三日以前、即ち一月三十一日の夜、君の家の中で君の身辺に起ったあらゆる些事を、寸分の間違いもなく君に告げることが出来る。

午後七時より七時半まで、君は君達の寝室にあてられている部屋の小机に凭れて小説を読んだ。小説は広津柳浪の短篇集「変目伝」その中の「変目伝」丈けを読了した。七時半より七時四十分まで、女中に茶菓を命じ、風月の最中を二箇、お茶を三碗喫した。七時四十分より上厠約五分にして、部屋へ戻った。それより九時十分頃まで、編物をしながら物思いに耽った。九時十分主人帰宅。九時二十分頃より十時少し過ぎまで、主人の晩酌の相手をして雑談した。