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いんじゅう
陰獣
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页
主人は留守だし、召使達も、気の置ける様な者は、遠方に使いに出して、待っているから、ということであった。彼女は自宅の電話を使わず、態々自動電話からかけたらしく、彼女がこれ丈けのことを云うのに、非常にためらい勝ちであったものだから、途中で三分の時間が来て、一度電話が切れた程であった。
主人の留守を幸、召使は使に出して、ソッと私を呼び寄せるという、このなまめかしい形式が、一寸私を妙な気持にした。勿論それだからというのではないが、私は直様承諾して、浅草山の宿にある彼女の家を訪ねた。小山田家は商家と商家の間を奥深く入った所にある、一寸昔の寮といった感じの古めかしい建物であった。正面から見たのでは分らぬけれど、多分裏を大川が流れているのではないかと思われた。だが、寮の見立てにふさわしくないのは、新しく建増したと見える、邸を取囲んだ甚だしく野暮なコンクリート塀と(その塀の上部には盗賊よけのガラスの破片さえ植えつけてあった)母屋の裏の方にそびえている二階建の西洋館であった。その二つのものが、如何にも昔風の日本建と不調和で、黄金万能の泥臭い感じを与えていた。
刺を通じると、田舎者らしい小女の取次で、洋館の方の応接間へ案内されたが、そこには静子が、ただならぬ様子で待構えていた。