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いんじゅう

陰獣

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页

青空文庫

ハハ……」

「落し噺かい。馬鹿にしている」私が少々怒って見せると、本田は真顔になって、

「いや、そいつは全く人違いで、失敗だったけれど、……苦心談ですよ。僕が春泥探しでどんなに苦心しているかという、一例を御話したんですよ」

と弁解した。

これは余談だけれど、我々の春泥捜索は、まあそんな風で、いつまでたっても一向曙光を認めないのであった。

だが、たった一つ丈け、これが事件解決の鍵ではないかと思われる、不思議な事実が分ったことを、ここに書添えて置かねばなるまい。というのは、私は六郎氏の死体の冠っていた、例の鬘に着眼して、その出所がどうやら、浅草附近らしく思われたので、その辺の鬘師を探し廻った結果、千束町の松居という鬘屋で、とうとうそれらしいのを捜し当てたのだが、ところがそこの主人の云う所によると、鬘その物は死体の冠っていたのとすっかり当てはまるのだけれど、それを註文した人物は、私の予期に反して、いや私の非常な驚きにまで、大江春泥ではなくて、小山田六郎その人であったのだ。人相もよく合っていた上に、その人は註文する時、小山田という名前をあからさまに告げて、出来上ると(それは昨年の暮も押つまった時分であった)彼自身足を運んで受取りに来たと云うことであった。