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いんじゅう

陰獣

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1928(昭和3)年8月増刊~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,968 字 · 131 页

青空文庫

、新しい趣味に共鳴したことは想像に難くありません。彼は遂に春泥の小説の主人公を真似て、自から屋根裏の遊戯者となり、自宅の天井裏に忍んで静子夫人の独居を隙見しようと企てたのであります。

小山田家は門から玄関まで、相当の距離がありますので、外出から帰った折など、召使達に知れぬ様、玄関脇の物置に忍込み、そこから天井伝いに、静子の居間の上に達するのは、誠に雑作もないことです。私は、六郎氏が夕刻から、よく小梅の友達の所へ碁を囲みに出かけたのは、この屋根裏の遊戯の時間をごまかす手段ではなかったか、とさえ邪推するのであります。

一方、その様に「屋根裏の遊戯」を愛読していた六郎氏が、その奥附の作者の本名を発見し、それが嘗つて静子にそむかれた彼女の恋人であり、彼女に深い恨みを抱いているに相違ない平田一郎と同一人物ではないかと疑い始めたのは、さもあり相なことではありませんか。そこで、彼は大江春泥に関する、あらゆる記事、ゴシップを猟り、遂に春泥が嘗つての静子の恋人と同一人物であったこと、又彼の日常生活が甚だしく厭人的であり、当時、已に筆を絶って行方をさえくらましていたことを、知悉するに至ったのでありましょう。