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ざっとう
雑沓
宮本 百合子
「中央公論」1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,832 字 · 50 页
「――でも私たち三人、何て、面白いんだろう」
人のいい笑顔になりながら宏子がその沈黙を破った。
「達兄さんはああいう人だし――順ちゃん知ってる? 達兄さんにね、いつだったか、兄さんはどんな友達がつき合いいいのってきいたら、そうだね、生活のレベルが同じのがいいなって云っていた。――順ちゃんは順ちゃんで、何しろ天使まがいなんだから、逆さで生まれた私なんかともしかしたらちがうのかもしれないね」
二人は声をあわせて笑った。順二郎は父親の泰造が数年外国暮しをした後に生まれた子であった。瑛子は彼を懐姙したとき、丁度良人が外国から買って帰った聖母子の油絵が気に入って、その絵にあるような男の児を生みたいと朝夕眺めていたという話を、皆は半信半疑に覚えているのであった。
寄宿へ行ってから、もと宏子の使っていた部屋が仙台の電気会社へ就職して行った達夫の荷物置場になった。今、家じゅうにきまった自分の居場所を持たない宏子は、弟の部屋を出ると、父の書斎へ入って行った。
柱に女の能面をかけ、隅に陶器をしまった高い飾棚など置いてある室内には、泰造が消して二階へあがった瓦斯ストウブの微かなぬくもりが残っている。