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ざっき(いち)
雑記(Ⅰ)
寺田 寅彦
「中央公論」1922(大正11)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,568 字 · 33 页
そしてその声が実際幽咽するとでもいうのか、どこか奥深い御殿のずっと奥の方から遥かに響いて来るような籠った声である。これは歌う人が口をあまり十分に開かず、唇もそんなに動かさずに、口の中で歌っているせいかもしれない、始めの独唱のときは、どの人が歌っているか、ちょっと見ては分らないようであった。
これもおそらく多くの現代人にはあまりに消極的な唱歌のように思われるかもしれない。もしそうであれば、それだけかえって必要な解毒剤かもしれない。
管絃のプログラムが終ると、しばらくの休憩の後に舞楽が始まった。
一番目は「賀殿」というのであった。同じ衣装をつけた舞人が四人出て、同じような舞をまうのであるが、これもちょうど管弦楽と全く同じようにやはり一種の雰囲気を醸出する「運動の音楽」であるように思われた。外の各種の舞踊に表われるような動的エネルギーの表出はなくて、すべてが静的な線と形の律動であるように思われた。
二番目の「地久」というのは、やはり四人で舞うのだが、この舞の舞人の着けている仮面の顔がよほど妙なものである。ちょっと恵比寿に似たようなところもあるが、鼻が烏天狗の嘴のように尖って突出している。