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あめあがる

雨あがる

山本 周五郎

「サンデー毎日涼風特別号」毎日新聞社、1951(昭和26)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,794 字 · 43 页

青空文庫

どこかしら歪んだしなびたような躯つきの、不自然に陽気なその猿廻しは、そんな挨拶をして、猿を背中にとまらせ、太鼓を叩きながら、足早に城下町のほうへ去っていった。

「天気は申し分なしですがねえ」小部屋へ戻って、暫くして伊兵衛がそう云った、「ともかくまだ二日めだし、先方でもなんとか云って来るだろうしねえ、黙って立つというわけにもいかないと思うんだが」

「そうでございますわね、でもわたくし、支度だけはしておきますわ」

「それはそうですとも、どっちにしても此処は出てゆくんだから……」

伊兵衛はどきりとして誇張していうと、かまきりのように首をあげた。馬の蹄の音が、宿の前で停ったのである。おたよも聞きつけたのだろう、これもはっとしたようだったが、すぐわれに返って包み物を続けた。伊兵衛は立って衣紋を直し、できるだけおちついた口ぶりで、「来たようだね」こう云いながら出ていった。

ちょうど土間へ牛尾大六が入って来るところだった。伊兵衛はどきどきする胸を抑え、できる限り平静を装い、やさしく微笑しながら上り端まで出迎えた。

「いや此処で失礼します」

牛尾大六は多少いまわしそうに、汚ならしい家の中を見まわして、このまえのときよりずっと切り口上で云った。