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あめあがる

雨あがる

山本 周五郎

「サンデー毎日涼風特別号」毎日新聞社、1951(昭和26)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,794 字 · 43 页

青空文庫

二

「誓文は誓文、これはこれ」

宿の名を大きく書いた番傘をさして、外へ出るとすぐ彼はこう独り言を云い、擽られでもするように微笑をうかべた。

「眼の前にこういう事が起こった以上、自分の良心だけ守るというわけにはいきませんからね、ええ、それは却って良心に反する行為ですよ、いや」彼はふとまじめな顔になり、「――いや、なにもしないんだから行為とはいわないでしょう、無行為、ともいわないですね」

わけのわからないことを呟きながら、ひどくいそいそと、元気な足どりで、城下町のほうへ歩いていった。

二

彼が宿へ帰ったのは、四時間ほどのちのことであった。

酒を飲んだのだろう、まっ赤な顔をしていたが、もっと驚いたことには、彼のあとから五六人の若者や小僧たちが、いろいろな物資を持ってついて来たことである。米屋は米の俵を、八百屋は一と籠の野菜を、魚屋は盤台二つに魚を、酒屋は五升入りの酒樽に味噌醤油を、そして菓子屋のあとから大量の薪と炭など。

「これはまあどうなすったんです」

宿の主婦が出て来て眼をみはった。若者や小僧たちは担ぎ込んだ物を上り端や土間へずらっと並べた。

「景気直しをしようと思いましてね」