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ゆきのシベリア
雪のシベリア
黒島 伝治
1927(昭和2)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,276 字 · 19 页
一週間ほどするうちに、それまで、全く枯野だった草原が、すっかり青くなって、草は萌え、木は枝を伸し、鵞や鶩が、そここゝを這い廻りだした。夏、彼等は、歩兵隊と共に、露支国境の近くへ移って行った。十月には赤衛軍との衝突があった。彼等は、装甲列車で、第一線から引き上げた。
草原は一面に霧がかゝって、つい半町ほどさきさえも、見えない日が一週間ほどつゞいた。
彼等は、ある丘の、もと露西亜軍の兵営だった、煉瓦造りを占領して、掃除をし、板仕切で部屋を細かく分って手術台を据えつけたり、薬品を運びこんだりして、表へは、陸軍病院の板札をかけた。
十一月には雪が降り出した。降った雪は解けず、その上へ、雪は降り積り、降り積って行った。谷間の泉から、苦力が水を荷って病院まで登って来る道々、こぼした水が凍って、それが毎日のことなので、道の両側に氷がうず高く、山脈のように連っていた。
彼等は、ペーチカを焚いて、室内に閉じこもっていた。
二人は来し方の一年間を思いかえした。負傷をして、脚や手を切断され、或は死んで行く兵卒を眼のあたりに目撃しつゝ常に内地のことを思い、交代兵が来て、帰還し得る日が来るのを待っていた。