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ゆきのやどり

雪の宿り

神西 清

「文藝」河出書房、1946(昭和21)年3、4月合併号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,995 字 · 51 页

青空文庫

とは申せその底には容易ならぬ気配も動いておりますし、桃花坊はその夜の合戦の場より隔たっておりませんので、すぐさま御家財御衣裳の御引移しが始まります。太平記と申す御本を拝見いたしますと、去んぬる正平の昔、武蔵守殿(高師直)が雲霞の兵を引具して将軍(尊氏)御所を打囲まれた折節、兵火の余烟を遁れんものとその近辺の卿相雲客、或いは六条の長講堂、或いは土御門の三宝院へ資財を持運ばれた由が、載せてございますが、いざそれが吾身のことになって見ますれば、そぞろに昔のことも思い出でられて洵に感無量でございます。この度の戦乱の模様では、京の町なかは危いとのことで、どこのお公卿様も主に愛宕の南禅寺へお運びになります。一条家でも、御縁由の殊更に深い東山の光明峰寺をはじめとし、東福、南禅などにそれぞれ分けてお納めになりました。京じゅうの土倉、酒屋など物持ちは言わずもがな、四条坊門、五条油小路あたりの町屋の末々に至るまで、それぞれに目ざす縁故をたどって運び出すのでございましょう、その三四ヶ月と申すものは、京の大路小路は東へ西への手車小車に埋めつくされ、足の踏んどころもない有様。