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ゆき
雪
楠田 匡介
「探偵新聞」1948(昭和23)年5月5日号、5月15日号、5月25日号、6月5日号、6月15日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,792 字 · 50 页
警部は署に電話をかけておいて犬ゾリで町へ下った。
ソリが、丸太造りの、階段のある旧式な建物の、警察署の前に止まると、警部は待ち切れないように、ソリからとび下りたが、
「うはあ、はははつめたい!」と悲鳴をあげて首をちぢめた。シズクがいきなり警部の首筋を叩いたのだった。
「どうしました?」
古市署長が立って来て訊いた。
「いや、どうも驚いた」
今日ばかりはさすがに窓も開け放しているが、いきなり入って行った警部の目には、真暗で、暫くは、何も見えなかった。
「お電話、ありがとう」
検事もいった。暗がりでまごまごして、警部は立ちすくんでいたが、目がなれると暖炉を囲んだ人々の顔が、見えた。
「いや、どうも、一寸考えついた事がありましてね。いやはや他国者にはなかなか判らん……寒い所には、寒さのためにこんがらがるものが、あるんですな」
そういって警部はすすめられた椅子に、腰をおろした。そして手を暖めながら、寒さに強ばった顔をごしごしとこすった。
暖い陽ざしが、窓から一ぱいに入り込んで、くすんだ埃っぽい庁舎も、今日ばかりは、まるで花束でもほうり込んだように、生々した光がはね返りあふれていた。