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ゆき

雪

楠田 匡介

「探偵新聞」1948(昭和23)年5月5日号、5月15日号、5月25日号、6月5日号、6月15日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,792 字 · 50 页

青空文庫

て型にしていやがるんだ」

と久保田検事はいまいまし相に吐き出すように言った。

「本庁におれば、鑑識課って裏づけがあるので、私達も動けるんですが……」

「何しろ因業な爺さんで、誰一人として好感をもっている者はない。細君でさえも困っているらしい。洗ってみなければ判らないが、金銭なんかでも、相当他人を泣かしているんじゃないかと思っている……その早川久三老人が殺された、その夜はひどい寒さでね……」

そういって古市署長はその顛末を詳細に話した。

樺太の冬の朝は遅い。その日も九時になってやっと陽がさしかけて来た。

いつも、夜の明けないうちからおきだして口うるさい久三老人も、今日は珍しくおきた気配がなかった。

十時近くなっても茶の間に姿を現わさないので、第一番に不審を抱いた細君が、「どうしたのでしょう?」とひとり言の様に、朝飯の給仕の手を休めてつぶやいた。食卓にむかっていた五十嵐も、伊東も、

「ほんとうに珍しいんでしょう、朝飯にでて来ないなんて……」

「ええ……望月さん、旦那を見なかった?」と細君の常は敷居越しに声をかけた。

「いいえ、今朝は、お見かけいたしません……書庫じゃありませんか?」