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あおふくのおとこ

青服の男

甲賀 三郎

「現代」1939(昭和14)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,026 字 · 29 页

青空文庫

もしかしたら、乗越すとか、又は熱海にでも行っていて引返して来るという事もあるから、上り列車についても調べて見たが、やはり全然手係りはなかった。鳶色服の信造の事については駅員がよく覚えていて、同じような青色服の青年を看過すとは考えられない。そうすると、卓一は汽車で来たのではないという事になる。汽車でなければ自動車である。

望月刑事は更に藤沢平塚間の乗合自動車について調べて見た。冬期で回数も少く、定員が少い上に乗客は定員以下であるから、車掌は殆ど乗客を暗記している。所が、卓一らしい青年は乗っていなかった。

卓一が茅ヶ崎の別荘にやって来た唯一の乗物は乗用自動車である。

望月刑事は首を捻りながら、その日の夕刻東京に着いた。先ず第一に訪ねたのは小浜信造のいるアパート緑荘である。緑荘は鉄筋コンクリートの宏壮なアパートだった。信造は茅ヶ崎にいて留守なのは分り切っているが、彼は信造の友人と称して、アパートの管理人に訊いた。

「小浜さん、いますか」

管理人は首を振って、

「留守ですよ。茅ヶ崎の別荘へ行きました」

「え」望月刑事は態と驚いて、「小浜さん、別荘を持ってるのかなア」