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あおくさ
青草
十一谷 義三郎
「文芸時代」1924(大正13)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,645 字 · 14 页
二
兄は俯伏せに横わったまま片方の眼を押えてしくしく泣いていた。その指の叉から濃い血が滲みでてくる。そして、彼の頭の上の空間には、脚を縮めた醜い蜘蛛のからだが、上の樹の枝の揺れにつれてもぞもぞと動いているのだ。
きゅうに彼女が、樹の上で破れるように泣きだした。弟もぼろぼろと涙を流した。そして主屋の方へ一散に駈けながら、遠くの彼女と声を合せて泣いていった。
兄の左の眼はその時以来ずっと黒眼鏡で蔽われている。
二
蜻蛉釣りに蜻蛉の行衛をもとめたり、紙鳶上げに紙鳶のありかを探したりする煩しさに兄は耐えられなくなってしまった。そうして雑草を踏みしだいて駈け廻ったり、ゴムをはるばると投げ上げたりする輝かしい遊びからも彼はすっかり遠ざかってしまった。彼は肥って色が白かった、それが黒眼鏡を掛けだしてから、いっそう静な清浄な感じのする子供になった。彼を憫しむ言葉が、弟らの前で、しばしば周囲の人々の口に上った。歌津子がこまごまとした毛糸細工を贈ったり、小さな南京玉の飾りを兄の胸へつけてやったりすることもたびたびあった。
弟は勝気な健康な子供であった。それが、いつの間にか何かしら憂鬱を感じるようになった。