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あおくさ

青草

十一谷 義三郎

「文芸時代」1924(大正13)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,645 字 · 14 页

青空文庫

五

そう言って眇の兄の顔が笑いながら弟の眼を覗きこんだ。

中学を出ると兄は東北のある専門学校へ入った。兄のたつ日、小さな車に兄の柳行李を積んで弟と歌津子とが町の停車場まで送っていった。汽車が出てしまってからも彼女はいつまでもあとを見送って立っていた。弟は車の轅を掴んで、その彼女をじっと待っていた。それから彼らは闇い道をてんでに別なことを考えつつ引き返えした。途中で雨が降ってきた。弟は車を道ばたに置いて十間ほど後から来る彼女のところへ戻っていった。

「遅れるから忙ごう。」

そう言って彼は彼女の手をとった。彼女は眼にいっぱい涙を溜めていた。それがきゅうに唇を震わせて彼を見た。

「車にお乗り。」そして彼は胸を轟かしながら彼女の肩に手をかけた。彼女はもう一度鋭く彼を見詰め、それから不意に彼の胸を押し除けて駈けだした。彼は硬くなって彼女の後姿を見守った、そして車のところへ戻って、提灯に火を点け、寂しい車輪の音をひびかせながら彼女のあとを家に帰った。

五

父が亡くなって弟があとをやっていくようになった。学校を途中で廃して帰ってきた兄は、家の庭に研究所を建ててほとんど終日それに籠っていた。