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かぜのさむいよのなかへ
風の寒い世の中へ
小川 未明
「赤い鳥」1925(大正14)年3月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,903 字 · 8 页
「お人形の着物も、だいぶ色が褪めてしまったこと。こんどお母さんに、いいお人形を買っていただきましょう……。」そういいながら、手に取りあげて、お人形を見ますと、お人形の手はとれ、足もないので、お嬢さんはいい気持ちはしませんでした。
「いくらいいお人形だって、また、どんなにいい顔だって、こんな不具なものはしかたがないわ。」
そういって、お嬢さんは、お人形を机のそばにおいたくずかごの中へいれてしまいました。
お人形は、くずかごの中にいれられて、半日ほどそのかごの中にいました。もう、ここでは、いままで毎日のように見た時計を見ることもできません。くずかごの中は、うす暗く、それに息づまるように狭苦しくありました。ただ、そこにいる間は、なつかしいお嬢さんの唄の声を聞いたのでありましたが、その顔を見ることはできませんでした。
そのうちに、下女が、このへやにはいってきて、あたりをそうじしました。そして、最後に机のそばにあったくずかごを持って、はしご段を降りてゆきました。
はしご段を降りたことは、お人形にとって、知らない世界へいよいよ出ていったことになります。いままで、長い間住みなれた、平和な、にぎやかな、明るい、変わったことの何事もなかった、このへやに別れを告げて、思いがけもない、まだ見もしない、知りもしない、世界に出てゆく