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ふうりゅうばけものやしき
風流化物屋敷
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,228 字 · 40 页
ぴた、ぴた、ぴた、廊下を素足でこっちへ歩いて来る者がある、青白い火の玉はその足音の先になって、ゆらゆらと宙を泳ぐように飛んで来る。しかし旦那は熟睡していてなんにも知らない、足音と火の玉は寝間の前を通り過ぎ、廊下の突当りまでいってまた引返して来た。だが旦那は依然として身動きせず眠っている、――平之助が習俗の異端者であり常識の謀反人であると申したわけを今こそ読者は諒解されたであろう。現在かれの示している態度は自然現象に対する冒涜であり、神秘への最大な侮辱だ。といきまいてみたところで、当人がこのとおり眠っちまっているんではどうしようもない、気の毒なのは廊下の化物氏であって、これでは氏としても立場がないわけである。フランス国にデカルトという肥ッちょがいて「人はいんちきするが故にぞんざいになる」と後悔しているが、これに照しても人間は眠るにさえぞんざいであってはならないということがわかる。……青白い光は廊下の向うへ消えてしまった。足音も聞えなくなった。化物は悟ったのである、かかる神経の持ち主に対しては情緒的手段は無価値である、専ら実効的具象的方法に拠るべきだ。