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ふうりゅうばけものやしき

風流化物屋敷

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,228 字 · 40 页

青空文庫

「およしよ辰さん、ばかばかしい、世の中に化物を知らない人間があるもんかね」年増のちょっと仇っぽい女性がこう云った、「いいよ私がやってみよう、久し振りで腕っきりやってみるから、みんなも来て見ているがいい――六さん支度はあったね」「持って来てあるよ」「手伝っておくれな」さあ急ごう読者諸君、もういちど旦那の部屋へ元がえりだ。……大丈夫、まだ旦那は起きていた、待ってくれと云われたので待っているのだろう、しかしよく見ると寝床の上に体は起きているが、両方の眼はくっついてしまったし、こくりこくりと頭がのめる、要するにいい心持で居眠りをしているのである。……夜はすっかり更けてきた、庇を打つ雨の音が、しとしとしとしとと滅入るように聞える、と、やがて、そこの襖がすうっと開いて、暗がりの中からゆらゆらとなにかが現われた、ふらふらと、こっちへ近づいて来る、長いさんばらの散らし髪が顔から肩を辷ってだらりと垂れ下り、青白い痩せた手を、こう……前へ泳がしている、半面どす黒い血に染った顔で歯をくいしばり、眼を三白に吊上げた凄惨な表情である、骨立った細腰を折れたように跼め、長い裾を曳きながら蚊帳の側まですうっと近寄って来た。