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ふうりゅうばけものやしき

風流化物屋敷

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,228 字 · 40 页

青空文庫

その夜、いや話を端し折って朝へいってしまおう。で、その翌朝のこと、旦那と令嬢とは生垣を中にして会った。

「いやどうも驚きましたねえ」今朝は平之助のほうから口を切った。「貴女の賢いのにはびっくりしますよ、単衣は洗濯すればちゃんと着れるし、料理屋の食事はまったく愛情がありやしない、毎日毎日鯛の刺身に吸物に」「ゆうべはどうなさいましたの、ゆうべは」「あれもぴったりです、文句なしですよ、嫁が母親と女中を伴れて来ると云いましたらね、連中ああそれではだめだと一遍なんです、他の事ならどうでもするが、嫁さんと嫁さんのお袋じゃあ命が危い」「まあ失礼な、なんという恥知らずの破落戸でしょう」「よく知らせて下すった、長いあいだお世話さまと云いましてね、もう決してお邪魔はしないからって穏便に話がつきましたよ」「ではもうなにもかも心配ありませんのね」「ええ、さっぱりしました」「なんにもですの?」「ええ、爪の先ほども心配はありません」「宜しゅうございますこと」「いい心持ですよ」とみ嬢の手は生垣の上にあった、しかし今朝は一つも檜葉を毟らないのである。眼は伏せたままだし、胸乳のあたりは大きく波うっている。