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ふうりゅうばけものやしき
風流化物屋敷
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1947(昭和22)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,228 字 · 40 页
たしかに、生垣を毟るよりも重大な「なにか」を待っているようだ。旦那のほうも、しきりに頭を捻っている、またいつかの物忘れをしたことがあって、それを思いだせないといった気持だ。そうだよ、なにか云うことがあったっけが、はて――などと考えている。女性の敏感ほど神秘なものはない、とみ嬢はすぐにこれを見破って「この方はなにもかも」と、心の中で合点した、「それこそなにもかも側からお世話してあげなくてはいけないんだわ」これは人道的であり母性の保護本能であって、些さかも利己心や牽制の意味は含まれていないのである、で、彼女はこう云った、「でも残った問題は唯一つですのね、奥さまをお貰いになること、そうでございましょう」「ああそれですよ、それが重大な」「では御免あそばせ、また明朝……」そしてとみ嬢は、彼の表情にある効果の表われたことも慥かめて、誇らかに凛然とそこを離れた。それから一刻の後、旦那は五五の歩を睨みながら、こんなことを呟いていた、「そうだ、五五の歩は捨てとけ、将棋は嫁を詰めれば、嫁じゃない王を娶れば、いや違う、――ええ違ってもよし、嫁を詰めろ」で、同じとき三浦家では、とみ嬢が備忘録にこう書いていた、「あの方はお申込みになるに違いない、そうしたら私はきっぱり断わるわ。