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かぜたちぬ

風立ちぬ

堀 辰雄

序曲、風立ちぬ「改造」1936(昭和11)年12月号、冬「文藝春秋」1937(昭和12)年1月号、春「新女苑」1937(昭和12)年4月号、死のかげの谷「新潮」1938(昭和13)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,998 字 · 108 页

青空文庫

、私はいそいでそのまま引っ返して来た。

やっとランプが点いた。それから私達は看護婦の運んで来てくれた食事に向い合った。それは私達が二人きりで最初に共にする食事にしては、すこし佗びしかった。食事中、外がもう真っ暗なので何も気がつかずに、唯何んだかあたりが急に静かになったと思っていたら、いつのまにか雪になり出したらしかった。

私は立ち上って、半開きにしてあった窓をもう少し細目にしながら、その硝子に顔をくっつけて、それが私の息で曇りだしたほど、じっと雪のふるのを見つめていた。それからやっと其処を離れながら、節子の方を振り向いて、「ねえ、お前、何んだってこんな……」と言い出しかけた。

彼女はベッドに寝たまま、私の顔を訴えるように見上げて、それを私に言わせまいとするように、口へ指をあてた。

※(アステリズム、1-12-94)

八ヶ岳の大きなのびのびとした代赭色の裾野が漸くその勾配を弛めようとするところに、サナトリウムは、いくつかの側翼を並行に拡げながら、南を向いて立っていた。その裾野の傾斜は更に延びて行って、二三の小さな山村を村全体傾かせながら、最後に無数の黒い松にすっかり包まれながら、見えない谿間のなかに尽きていた。