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ぐるめにおくる
食魔に贈る
岡本 かの子
「中央公論」1932(昭和7)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,619 字 · 20 页
静で派手な電光。それは一通り世の中を知ったマダムだ。しかし年は若い。彼女は長い裾の着物を着る。絵のような帽子を冠る。そして口紅だけは避けて素でさっぱりしている。ざっとこんな感じの部屋だ。
一たい巴里で料理専門の店にはこうした造りが多い。広さもそう広くない。きまった客の数だけを宝石箱の中へ入れるように大事にして、食事専念の志を擾すまいと万事に努める。給仕に偏執狂を扱う看護卒のような心得がある。これから見ると大ホテルの食堂などは野外饗宴だ。虚栄の風で食物の味は吹き曝されて仕舞う。
真に食道楽の客は大かた一人で来る。彼はかならず窓脇腰掛の角隅に席を選む。彼には何年来定まった席があるのだ。その席がもし他の客に占られていたなら睨む。しばらく立並んで呪いの眼で睨む。それからふしょうぶしょうに臨時の席につく。実際巴里人には妻も子も持たないで生涯の愛を舌に捧げる食道楽がたくさんある。彼等は肥っているが美食に疲れその皮膚は不自然に箍になって弛んでいる。彼等は美しい女を見ても本能を食慾の方へ導いてうまそうだと思う。肝や臓物を多く食うので胆石病にかかり易い。彼等が食道狭窄症に陥ってもう食えなくなる。